山羊の歌



 中原中也が生前発表した、ただ一つ詩集。


 とりあえず、有名な
 「汚れちまつた悲しみに・・
  *(  )内は旧仮名づかい

  汚れつちまつた悲しみに
  今日も小雪の降りかかる
  汚れつちまつた悲しみに
  今日も風さへ吹きすぎる

  汚れつちまつた悲しみは
  たとへば狐の革裘(かはごろも)
  汚れつちまつた悲しみは
  小雪のかかつてちぢこまる

  汚れつちまつた悲しみは
  なにのぞむなくねがふなく
  汚れつちまつた悲しみは
  倦怠《けだい》のうちに死を夢む

  汚れつちまつた悲しみに
  いたいたしくも怖気(おぢけ)づき
  汚れつちまつた悲しみに
  なすところもなく日は暮れる……