愛欲と陶酔の日々 ・・・1980年製作

 映画「死と乙女」の後、この映画を見ることにした。
 「死と乙女」がほぼエゴン・シーレの伝記に沿った描き方をしてるのに対して、
 この映画は少女誘拐事件ヴァリーとの同棲生活エーディトとの結婚生活に焦点を当てる。
 少女誘拐


 映画は、エゴンへのヴァリーの献身的、ひたむきな愛を描く。
 拘置所に留置されたエゴンの苦悶を支え、彼を解放するために判事や弁護士と折衝し努力する姿。
 また、彼の絵を売るために買主に身を任せるなど。
 絵を売る



 モデルのヴァリー。背景画はクリムト作「ベートーヴェン・フリーズ」から、3人の魔女ゴルゴン

 俳優ジェーン・バーキン。ヴァリー・ノイツェル
 ロンドン出身の歌手・役者・モデルとして有名
 彼女は2011年、東日本大震災で来日、支援のチャリティーコンサートに出演してくれた。

 ジェーン・バーキン


 しかし、エゴンはヴァリーを愛しながらも結局彼女を捨てる。
 当時のウィーンの常識では、結婚は低い身分の女より同等な身分の女とすること。
 
 エーディトとの仲睦まじい結婚生活。
 兵役中のエゴンは、エーディトが別の男と関係をもつという妄想をいだき、思い悩むこともある。
 エーディト役は、今は亡き俳優クリスティーネ・カウフマンで、絶世の美女であったという。

 エーディト

 エゴンの自画像の前で、自画像の右手はEで私エーディト、左手はAで姉アデーレね、と。
 これからエゴンとベッドをともにする時。
 自画像の前で

 大戦中、後方勤務のエゴンは自由に創作に打ち込める余裕を得た。
 また、ポルノまがいの絵を描く画家から、強烈な個性あふれる絵の画家へと、
 彼の画風の評判が大きく変化する(画風の変化はないが)。
 自画像

 映画のラストシーンは、拘置所から解放されたエゴンが弁護士の出迎えを受け、
 彼の母親とヴァリーと駅で抱き合うシーンで終わる。
 これは回想シーンになっているが、エゴンの死と彼が死から解放されたことを示唆してようだ。


 <この映画からいくつか。>

 ①ヴァリーの死は猩紅熱でなく梅毒3期という。
  当時のウィーンでは、梅毒に罹った者は多い(クリムトも)。

 ②スペイン風邪によるエーディトの死の直前、彼女の求めでエゴンとセックスするシーンもある(できる?)

 ③エゴンの風景画「四本の木」は、一本は枯れてしまってる。シーレの心のどこかが枯れてしまったのか
  拘置所内でのエゴンの心象風景を表すようだ。
 「四本の木」

 ④題名「愛欲と陶酔の日々」は邦訳だろうか。
  私ならむしろ<陶酔>より<苦悶>としたい。

 ⑤シーレ役はこちらのマチュー・カリエールがいい。
  エゴンの陰の面を演じるに相応しい容貌。
  「死と乙女」の俳優はハンサムすぎるか?
  マチュー・カリエール

 ⑥ヴァリーがエゴンと決別するシーン。「誰も愛していない」と、メモをピン止めした。
  絵は「死と乙女」。絵にピン止めするなんて!映画だから仕方ないか。
  決別シーン
 
 ⑦シーレは、妊娠中のエーディトと自分、やがて産まれる子どもを描いた。だが、この家族はできなかった。
  シーレは自分の顔を珍しく実像らしく>描いている。
  将来の幸せな家族を想い描いたに違いない。この「家族」はシーレの本音を表しているようだ。