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  天声人語1
  朝日デジタルを購入したのは「天声人語」で、
  気に入った記事を備忘録代わりにスクラップするためだった。

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     はしか絵に学ぶ>  <大津絵の鬼







 <折々を待ちながら>

 「折々のことば」と小欄は、軒を連ねるお店のよう。
 互いに干渉せぬ仲ながら、気持ちの上では支え合い、競い合う。
 休業中のお隣に代わり、「私の折々のことばコンテスト」から胸に響いた言葉をご紹介しよう

 今回は全国の中高生から2万9千編が寄せられた。
 札幌市の中学生冨田遥乃(はるな)さんの大切な言葉は、
 宮城県に住む祖母の「食う分さげあればいィ」。
 コロナ下で様子うかがいの電話をかけると、
 「津波に比べだら屁(へ)でもないよ」と元気な声。
 「濡(ぬ)れでないし、寒ぐないもの。
 どうなっかわがんないごとに人はビビるんだっちゃ。
 起ぎで食って寝る。あどなんもいらんべし」。
 思い、思われ、ちゃんと食べる。日常の大切さを学んだそうだ。

 大阪市の中学生村上夢奈(ゆな)さんはテストで書き間違いをした。
 「肥満」のつもりがなぜか「脂満」に。
 しょげて話すと、兄が「その方が正解っぽいやん!」。
 父は父で「お父さんのお腹(なか)は脂に満たされてるぞ」。
 家族の笑いに救われた。

 「靴の脱ぎ方であなたがわかる」は、
 神奈川県小田原市の中学生笹尾琴把(ことは)さんの作。
 2年前のある日、母が「学校を少し休んだら?」。
 雑な靴の脱ぎ方で、何かつらい目に遭っていると見抜かれた。
 このごろは靴をそろえるよう注意されるが、
 日々の「報告」のつもりで、あえて気分のままに脱ぐという。

 世界中で人々が言葉に傷つき、言葉に励まされ、言葉に奮い立つ日々。
 珠玉の言葉を伝える「折々」の店の扉がまた開く日を隣で心待ちにしています。



 はしか絵に学ぶ

 食してよきもの干し大根、ゆり根、あわび。
 悪しきもの酢の物、そら豆、ごぼう……。
 麻疹が猛威をふるった幕末1862年、
 そんな怪情報をたっぷり載せた浮世絵が出回った。
 「はしか絵」と呼ばれる。

 「浮世絵というと現在では高価な芸術品ですが、
 江戸の庶民にとっては安価な情報媒体でした」。とは、
 埼玉県立嵐山史跡の博物館の学芸員加藤光男さん。

 文字だけの瓦版と違い、絵と字で解説する「はしか絵」は好評だったらしい
 たとえば、「はしか童子」を捕縛しようと酒屋や屋形船屋が取り囲む絵。
 「酒を飲むな」という教えが広まって店が傾いた職種がわかる。
 療養中の花魁(おいらん)を描いた絵は、
 入浴や飲酒を75日は控えるよう説く。

 加藤さんによると、当時、春の第1波と夏の第2波の間に、
 不確かな情報はどんどん淘汰(とうた)された。
 怪しげな食品情報や呪術は激減する。
 最後まで生き残ったのは、
 感染を避けて男性が家で花を生け、女性が読書するさまを描いた絵。
 いわばステイホームの教えだった
 思い出すのは昨春、SNSで拡散した奇怪なコロナ退治策のいくつか。
 「花崗岩のかけらを携行する」「27度のお湯を飲む」。
 真に受けた人に会ったことはないが、世間が浮足立つとはこういうことかと実感した
 私たちも第2、第3の波を浴びつつ日々学んできた。
 買い占め、自粛警察は見なくなった。
 手洗い、マスク、人との距離は定着した。



 <大津絵の鬼>11・21

 鎌倉時代の説話集『宇治拾遺物語』に、
 こぶとり爺さんの原型とみられる話がある。
 作家町田康(こう)さんによる現代語訳が弾んでいる。
 お爺さんが見た鬼の姿は
  「皮膚の色がカラフルで、真っ赤な奴(やつ)がいるかと思ったら、
   真っ青な奴もおり、どすピンクの奴も……」

 鬼の宴会に交ざって踊りを披露したお爺さんに鬼が言う。
 「次にやるときも絶対、来てよね」。
 約束に何か預かろうということになり
 「やっぱ瘤(こぶ)いこう、瘤」。

 この訳、やりすぎか。
 いや案外、おかしな話の雰囲気を伝えているのかもしれない。

 町田さんの筆致を思い起こすような鬼の絵を見た。
 東京ステーションギャラリーで現在展示中の「大津絵」である。
 江戸時代、今の滋賀県の宿場町で
 土産物として売られていたユーモラスな絵で、
 人物や動物のほか、鬼を扱ったものも多い。

 「鬼の念仏」は、目がぎょろりとした鬼が僧侶姿で歩いている。
 慈悲の心もないのに、形だけ念仏を唱える人をからかっている。
 「鬼の行水」には、身体の汚れは落とせても
 心の汚れは落とせないという風刺が込められているらしい。

 丸っこい線、鮮やかな色使いの絵の数々は、
 名もなき職人たちの手による。
 子どもに道徳を教えるのに使われたり、
 お守りにしたりと人気だったようだ。
 日本の漫画の源流として鳥獣戯画がよくあげられるが、
 大津絵も間違いなくその一つであろう。
 最近流行している漫画に鬼が出てくるのも、むべなるかな。
 この国の大衆文化の流れに、思いをはせてみる。
  *)この記事を読み、私は大津絵展に駆け込んだ。
   そして、「美術めぐり」のページに掲載した。
 



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