磯田湖龍斎
   「風流十二季の栄花」

 下の画像は、七図「文月(7月)」
 右端に<題句>「文月 命毛のあそばぬ筆や男七夕」
  *命毛は筆の一番大事なところ。男(を)七夕は男星(牽牛星)を指す。
 この狂句からもおおよそ想像できる。
 


 7月7日、七夕の短冊を一家で書いているところ。ついつい旦那が命毛を使ってしまう。
 幼い子たちがいても、その気になってしまう。江戸の<おおらかさ>を表す場面か。
 絵の書き入れは、<志ものく>は下の句、男女の秘所の掛詞。
 左から、娘「かゝさんのをみてかこうふ」
      母「あゝ志のくハなんとしょう、エゝモつんと」
      父「志ものくほのぼの~」

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 *フォトモーションできないので。

 サムネイル形式
 上左から、孟春(正月)、如月(2月)、桜月(3月)、卯月(4月)、皐月(5月)
 中左から、水無月(6月)、文月(7月)、壮月(8月)、菊月(9月)、良月(10月)
 下左から、神無月(11月)、朧月(12月)
  *5,6,10,11月の良い画像が無かったが、見つけた。
 

 各月の題句(上)と書入れ(下)は、そして情景は以下
 孟春(正月)
  初夢や春に女夫(めうと)のゆるみあひ
  無し
  二人で同じ夢をみる。初夢で縁起のいい「一富士二鷹三茄子」と鉢植えの福寿草(元日草とも)。
 如月(2月)
  はつ午やけふを始めのさしもぐさ
  若衆「そりや あつたかでよかろふ」 娘「わたしや いたくつてもこらへているによ」
  さしもぐさは若衆のマラ、娘は初体験をお灸のように痛いと。
  障子の破れ目から覗く顔、笑い絵の趣向。
 桜月(3月)
  毛氈や花の時打ツ越の海
  女「はやくしてしまいな」 娘「おふこわ おがむにへ~」
  花見に幔幕を張り毛氈を敷いて、中で交合する男女。狐面の男が通りがかりの娘を怖がらせる。
  越の海で荒波や腰の動き、花の時打ツで絶頂、幕からはみ出してしまったほど。
 卯月(4月)
  花の名もよしや卯月の色すがた
  女弟子「エゝも いつそどうしようのう」 師匠「おれももういくぞ~」
  卯月は<疼き>の洒落か。卯の花が咲き、女弟子の右下半身の白い肌。
  空に鋭く鳴くホトトギス(卯月の鳥)、女弟子の絶頂の声。
 皐月(5月)
  菖蒲湯にぬれの縁ありついり哉
  女房「これなにしやる ばからしい」 亭主「ばからしいとハおなさけない それ~」
  五月五日端午の節句に女房が菖蒲湯に、亭主がその姿に催す。
  ぬれの縁は<濡れ>で風呂桶の濡れと性交の濡れ、ついりは入梅と男の露と懸けている。
 水無月(6月)
  一トあみにすくひ上ゲてや海月(くらげ)とり
  亭主「これハきついにわ鳥ぢや」 女房「アヽもつとうへを~」
  朝顔の咲く夏の朝の目覚め時。蚊帳を被った亭主が後背位(鳥の姿)で、海月は女房の白い尻。
 文月(7月) *上記の通り

 壮月(8月)
  あらたかのまたゝく間なし玉兎
  鷹匠「こりや とつたハ~~」 娘「これ、申し~」
  あらたかは鷹匠、玉兎は娘。鷹狩りに来て娘を手籠めに、娘はあらがう。玉兎は月の兎を指す。
 菊月(9月)
  寸の間に尺を越へたり紅葉鮒
  女房「これ、はないきが~~」 亭主「ごう~~」
  奉公人の若者が女房に後ろから迫り、彼の鼻息の荒さをたしなめている。
  紅葉鮒は若者ことか、鮒に喩えて、一寸の間にこんなことする若者になったと。
 良月(10月)
  お手づからいたゝ゛くものや冬牡丹
  腰元「あれ申し おく様が これさ~~」
  主人「はてきのせまい だいじないさ」
  冬牡丹は火鉢の異称。火鉢の火照りを殿様の欲情に喩えたか。
  十月の初亥の日の亥の刻に亥の子餅(武家は紅白餅、町家は牡丹餅)を食べた。
 神無月(11月)
  帯とくといふ名いぶかしむくめ鳥
  男「もちつと立ツておめにかけな」
  女「これハうつゝいおべゝだ」
  帯とくは女児の七歳の祝いの行事。むくめ鳥は可愛い娘。二人は夫婦でなく、男と愛人(娘の母)か。  <帯解く>は大人の色事を意味するが、なぜか幼児の祝に、<いぶかしい>。
 朧月(12月)
  寒ごゑやてうど丁子あふたどし
  娘「おまへ、此のごろハこへがわりしたの」 
  若者「きついごせんぎさ」
  町家の物干し台で寒声稽古、娘が若者の声変わりを言い、
  若者はそれを<心変わり>と間違って聞いたのか。
  しかし、二人は睦まじく心身ともに調子を合わせる。何故か向かいの家の鬼瓦が睨んでいる、