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    アランの男
      ・・ドキュメンタリー映画の傑作


 アイルランド旅行へのリンク



 はじめに
 私はかつてアイルランドを旅行したけれど、もはや記憶が定かでなく、
 わずかに「アランの男」を見た覚えがあるだけになってしまっている。
 旅行の記録では、ゴールウェイからフエリーで、
 ヨーロツパ古代歴史の最大の謎のひとつとされるアラン諸島へ。
 着後、イニシュモア島の観光。
 そして、昔の日時計や墓のある「聖キーラン修道院」や、
 100m近い絶壁の上の遺跡「ドクーン・エンガス」を見学した。

 アラン諸島の三つの島。左(西)がイニシュモア島。
 中央がイニシュマーン島、右(東)がイニシア島。
 アイルランド語でÁrannとは「長い山々」の意味という。

 

 この観光の際に「アランの男」を見たようだ。
 そして、全島花崗岩からなり、土がないという過酷な自然条件のなかで、
 島でどうして人は生きる(住み着く)のか?
 大西洋の荒波に翻弄されて死と隣り合わせの漁師(男)たち。
 <人間の不可思議な生き様>を象徴していると、
 私は感想を述べている。
  注)花崗岩ではなく、石灰岩のようだ。

 そこで、改めてこのドキュメンタリー映画を見ることにした。


 「アランの男
 原題「MAN OF ARAN」1934年製作。
  注1)MANは<男>というより<人>と訳した方が良いかも。
   主人公は一家三人だから。
  注2)映画は英語版だが、島民の言葉はゲール語のようだ。

 <ドキュメンタリー映画の父>と呼ばれるロバート・フラハティ
 Ⅰ年半かけてイニシモア島に移住して撮影したという。

 アラン諸島は、アイルランド本島の南西の都市
 ゴールウェイの沖に浮かぶ三つの島のこと。
 最も大きいのがイニシュモア島
 島はカルストの岩で覆われた島で大西洋に向かって垂直の壁が連なっている。
 断崖に激突する波涛、断崖に打ち上げた波の引くときには、
 岩から<千筋細い滝>のように流れ落ちる。

 

 この島には土壌がなく、ただ岩石のみから出来ている。
 そして激しい浪と風とが毎日のように、
 この島を打ち寄せてくる(たまに、静穏なときもある)。
 映画は過酷な自然のなかで逞しく生き抜く島民の生活を描く。

 映画の主人公は一家三人。
 夫ショーン(コールマン・(タイガー)・キング)。
  タイガー(虎)の綽名、アランの男。
 その妻のマギー(マギー・ディラン)
 その息子(マイケル・ディレーン)
  *)カッコ内は演じた人名。
 その他、出演者はすべてアラン島の人たちだ。


 <あらすじ
 映画は息子が海岸でカニを捕る場面から始まる。
 あとで、彼は捕ったカニを餌にして
 とても高い崖の上からロープを投げて魚釣りを行う。
 夫のショーンは槌を振って岩を叩き砕き、
 妻のマギーは平らにした岩の上に肥料として海藻を敷く。
 海藻の上に土をまくのだが、土は岩の下にかろうじてあり、
 岩を砕き、あるいは岩と岩との間に探し集める。
 こうして畑ができあがる。
 さらに強風から畑を守るための石垣も作られる。


 海にはウバザメの群が現れる。
 ウバザメは大西洋の最大のサメで、
 映画では、狙ったウバザメが<Ⅰトンあるぞ>と。
 このウバザメの肝臓を煮詰めて採った肝油
 アラン島民の唯一の灯明の材料となるのだ。

 波の高い中、ショーンと他の4人の漁師の小舟。
 狙ったウバザメの背中にショーンが
 銛(ハープーン)を打ち込み、
 そのまま荒れ狂うウバザメに舟を引きずられ、
 (尾ひれに当たると死ぬ鴨しれない)
 一晩中、海の上を漂う。
 夜になっても漁が終わらない。夫たちのことを心配する妻。

 夜が明け、ようやくウバザメの力が尽きた。

 


 遠く海を見やる妻と息子は、漁が成功したと知り、
 肝臓を煮詰めるために用意した大釜に火を入れる準備をする。
 また、島の人々がこぞって海岸に集まり、
 漕ぎ寄せる舟を迎え、
 大きなウバザメを引き揚げるのを手伝う。

 



 海は荒れている。
 白い浪頭が次々と島に押し寄せ飛沫が上がる。
 天気模様が怪しい、それでも夫ショーンは海に出て行く。
 三人乗りの小舟は浪に弄ばれる。

 


 切り立った崖の先では、ショーンの妻と息子とが不安な様子で
 荒波に呑まれそうに浮き沈みする小舟を眺める。

 


 やっとのことで小舟は岸へたどり着いた。
 漁師三人は小舟から飛び降りたが、
 小舟は浪にさらわれて流れてしまう。

 舟を失った漁師
 漁ができない、でもそれが何であろうか、
 夫は妻と息子のもとに無事帰って来たのだ。

 

 そうして夫と妻と息子とは家へと帰る。
 アランの島にはもう冬が近い。


 注)
 小舟(カラハ)は牛の皮を張ったもの、
 靴(パンブーティ)
  Ⅰ枚の牛の皮革から足を包むように作る。



 <参考まで>
 1,日本の小川紳介監督
  「三里塚闘争」のドキュメンタリーで知られる。
  「フラハティの伝記」(夫人著)を翻訳している。
  注)助監督の福田さんは友人だった。
 2.ジョン・ミリントン・シング(1871~1909)。
  アイルランドの劇作家。
  フラハティは人づてにシングの著作に触発されたと言われる。
  シングは何回もアラン島を訪れ、
  旅行記「アラン島」(1907)と6編の戯曲を発表し、
  アラン島を詳しく紹介した。
  とくに一幕もの戯曲「海に乗り行く者」(1903)が名高い。
  世界はシングによってアラン島の存在を知ったという。

 下の写真は、シングが住んでいたイニシュマーン島の住居。
 



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