映画「ラサへの歩き方」
         祈りの2400Km

 この映画は、チベットの小さい村から聖地ラサへ1200キロ、さらに聖山カイラス山へ1200キロ、
 五体投地で巡礼する11人の物語。
 日本では想像もできない過酷な巡礼の物語だ。

 


 上の写真: 左はワンドゥ(家畜解体を生業とする男)、右はタシ・ツォモ(タツォの愛称)
 
 2400キロの巡礼の旅
 カイラス山
 ラサ・ポタラ宮

 この映画はチベットの人々の日常の生活・習慣の様子や、ごく普通の表情を捉えようと、
 カメラを意識しなくなるまで待って撮ったという。監督はドキュメンタリーではない、と。

 正月のお祝い

 巡礼する11人(途中で産まれた赤ん坊入れると12人)
 ニマの家族
 ①ニマ:この家族の長、50歳。亡くなった父親の法事中。
   巡礼の旅のチームリーダー役。
 ②ヤンペル:ニマの叔父、70歳。兄が健在の頃、兄弟は巡礼に出ることを願っていた。
   カイラス山にたどり着いて死亡。
 
 ケルサン一家
 ③ツェリン:ケルサン家の長女、24歳。妊娠中、巡礼途中で男の子を出産する。
 ④セパ:ツェリンの夫、入り婿。
 ⑤ツェワン:次女、ツェリンの妹19歳。<一妻多夫婚>のチベットの伝統がまだ残り、
   16歳の時、隣家のニマ家の三兄弟に嫁いだ。巡礼の旅を望まなかったが、姉ツェリンの出産を手伝うために参加。
 ⑥ダワ・タシ:セパの弟。
 ⑦ワンギェル:ツェワンの叔母の息子(ケルサン家の甥)、17歳。
 
 ジグメの家族
 ⑧ジグメ:一家の長。かつて運送業を営む。数年前、新築工事中に事故で2人死亡。
   賠償金を支払い、まだ家は未完成。借金を背負い、出演を希望する。
 ⑨ムチュ:ジグメの妻。
 ⑩タシ・ツォモ:ジグメとムチュの末娘。<タツォ>の愛称で呼ばれる。
 
 ワンドゥの家
 ⑪ワンドゥ:家畜解体を生業とする男、酒飲み。これまでの殺生を浄めるために巡礼に   出たいと願う。

 ⑫?テンジン・テンダル:ツェリンとセパの息子、旅の途中、ソゴン県の衛生病院で産まれた。
   映画史上最年少の出演者か?

 映画監督のチャン・ヤン(張楊)によるストーリーと人物設定。
 「70~80歳ほどの老人、巡礼の途上で死を迎える。
  妊婦の存在、彼女の赤ん坊は巡礼途上で産まれる。
  家畜解体を生業とする男、あまたの殺生のため巡礼をして贖罪をしたい。
  7,8歳の女の子。
  16~17歳の若者、不良少年かデリケートでシャイな男の子で、途中の様々な出来事から感化を受け、成長する。
  50歳ぐらいで、成熟した落ち着きのある男、巡礼チームのリーダとなる。」
  監督がおよそ描いていたことが、プラ村だけで奇跡的に実現したという。

 五体投地の仕方
 巡礼で行う五体投地は、両手・両膝・額を地面に投げ伏して祈る。
 身体を保護するために首から前掛けを着け、両手に<手板>をはめている。

 お経の経文を念じまたは唱え、手板を頭上・胸・腹などで打ち合わせながら数歩歩き、
 手板を地面に滑らせながら身体を投げ伏す。
 地面に伏せた頭の上で手板を打ち合わせて立ち上がる。これを繰り返し行う(巡礼中、何万回?)
 
 途中出会った老人から正しい五体投地の仕方で注意を受ける。
 頭に赤い布飾りをしているワンドゥは、頭飾りをとれと。
 お経もによるが、身体を投げ伏す前に歩きすぎてもいけない。
 額を地面にしっかりと着ける、額にコブができるぐらいに、など。

 五体投地1
 五体投地2

 巡礼の日々
 最高齢のヤンペルが先頭でマニ車を回しながら歩む。
 最後尾にリーダーのニマが荷車を牽いたトラクターを運転する。その間を五体投地で皆が進む。
 五体投地で普通およそ1日10Km進む(この撮影隊は1日1Kmしか進めない場合もあったという)。
 途中テントを張り休憩し、他の巡礼者たちと出会うとお茶に招き、招かれる。
 そして、夜寝る前に皆でお経を唱える。
 
 巡礼する11人
 休憩中に

 途中の出来事
 一番はツェリンの出産。赤ん坊のテンジン・テンダルの名は<元気に幸せに育つ>ようにと。
 ニマの運転するトラクターが追突事故に会う。幸いニマは軽症で済むが、皆で荷車を押し進むしかない。
 ラサに着いたが、カイラス山に行く旅費がなくなる。そこで、男たちは旅費稼ぎに2カ月間働く。
 ワンギェルはラサで美容師の少女に出会う。カイラス山の帰途再び会うことを約束する。
 
 聖山カイラス山で
 一行は、聖山カイラス山に五体投地で進みながらやっとたどり着く。
 しかし、ヤンペルが亡くなる(映画の演出かもしれない)。
 カイラス山巡礼を兄とともにしたいと願っていたヤンペルにとって、ここで死を迎えることはきっと幸せなことだった、と皆は願う。
 
  *映画では、岩の頂でラマ僧の読経を受けながら、ニマとジグメが白い布にくるんだものを置いていく。
   空には数羽の鳥が舞う。この情景は、<鳥葬>のシンボルに違いない。

 チベットの雄大なかつ寂寥を帯びた自然の風景が映画に映し出される。
 日本で目にする自然の風景と全く異質な情景に圧倒される思いがする。

 自然の風景1
 自然の風景2

  チベット密教の美術へ