絵本開中鏡
     ・・・歌川豊国


 歌川豊国は、国貞国芳を弟子とした<歌川派>の総帥。
 豊国は<役者絵>で名声を得た。
 役者絵と云えば、今日、東洲斎写楽の名が先ず挙げられるけれど、
 写楽の絵はどちらかというと<好事家>好みで、一般の役者フアンには嫌われたらしい。


 豊国は「明智本能寺を囲む処」という絵を描いて、幕政を風刺したとされ、
 哥麿と同様に、手鎖五十日の刑を受けた。
  *哥麿の事件ついては「ねがいの糸ぐち」のページに入れた。
  ねがいの糸ぐちへのリンク

 その後、幕府の禁制の春画など、弟子にも描くことを禁じていたが、
 15年以上経って、自ら春画を描くようになったという。


 豊国の春画の特徴は、それまで<一図と書入れ一話>となっていた春画に、
 <数図による物語>、ストーリー仕立てにしたこと(作者二代鳥亭焉馬とコンビ)で、
 この艶本もそうなっている。

 「絵本開中鏡」は、三冊からなり、第一冊の扉絵はいかにも春画(笑い絵)らしい神が鎮座する。
 神名は「鉄梃陰茎腎張明神」(かねてこまらじんはり明神)
 祠(ぼぼ)内に鎮座し、周囲に性のシンボルがウヨウヨ。

 明神様

 第一冊の<第一話>は四図構成になっている。

 初めの一図は、殿様が、御簾越に奥女中たちと初お目見えの側女を見ている図。

 其の一図


 下図が<其の二>。
 殿様付きの老女が、側女になった娘(十七歳)に<夜伽>の心得を授けている。
 老女「・・第一御上を大切ハ申ニおよバず 夜のおとぎがかんじんだよ 御上でなんでも
  ぎよい次第おじゆふニなつて いくつでも~御上でおたんのうあそバすほどたんと御させ申が・・」
 側女「はい~ありがたう存ます 何分およろしう御とりなしを・・」


 



 次は<其の三>図。
 側女になって三ヶ月経った。
 殿様、一夜に休みなしで五番、昼入れて七八番だと。
  「はじめてのそバめゆへ一トしほめづらしくかわゆく 其上ニ上開のたこでいんらんで
  此やうなうれしい事ハない おのしもいゝか 又こよいもれいの床の海でたんのうさせやうぞや
  ・・どふじやよいか~ 入ぬうちから出すハ~」
 側女「其やうな事あそばさずとはやくおいれあそバせ いつそじれつとふぞんじます」
 殿様「・・こよいハひけがはやいから十ばんほどハうけ合じや」
 側女、きつくいじって、もう入れないうちから<いく>と。
  「それ~おゝいゝ~ ごめんあそばせ こしをつかひますよ おゝいく~ ・・」
  *文中の<床の海>は催淫薬。

 


 其の四図
 ズームしたが読めそうもないかな。
 殿様はすっかりやつれているが、側女は薬(強精剤?)を貰ってきて殿様に呑ませる。
 側女「・・又おゆるしあそバせ ひとのこぬうちニ早くしまいます それ~もふはいりました
  エヽモウそれ~ いつそじれつてへ」
 殿様「これさおさせや そのやうニせかずとしやれ ゴホリ~ ・・早くねまで入やれ ・・
  四五日此かたハたちつゞけだて そしてこんやハこのまらのなへるまでいたそふでハないか」
 側女「・・アレサどふも~ひどくいきますよ ごぜんへ~
  いつそあなたのが木のやうになりつゞけでござりますから いじわるくいきます
  エヽそれ~ おぬしのものやおしとねへ ながれますよ エヽどふもとけます~
  ヲヽいく~ それ~いく~~」
 殿様はもう言葉も出ない。 
  *文中<おさせ>は、側女の淫乱さから。


 右の図は、医者と家臣の侍が相談している。医者はあの女(側女)がいるので手に負えないと。
  *右下の書入れ
 また、みぎ中程に、女中たちの会話 
  「あのせんせいが又おくすりを上るから又はじまるハな どふいたそふの
   あれだからだん~とおわるくなるハ ほんとににくらしいおさせさんだよ」


 豊国を挙げたので、弟子の国貞と国芳も観てみよう。
 国芳は<奇想の絵師>展を観て、私が浮世絵に興味を持ったきっかけとなった。

 国貞・国芳へのリンク