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ギリシア神話概観
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オリンポス12神 人間の創造 パンドラ
諸族の名祖
ギリシア神話は、単に古代ギリシア世界にとどまらず、
ギリシア世界を取り巻くアジア的古代オリエント文明圏や、
エーゲ海・東地中海の諸文明圏という広範な地域にまたがる
多様な神話・伝説群の影響下に成立した。
例えば、ギリシア的ミケーネ文明は、それ以前の文明、
クレタ島を中心に東地中海に繁栄したミノア文明との関係がある。
ミノタウロスを退治するアテネの英雄テセウスの物語は、
怪物ミノタウロスに若い男女を犠牲として捧げるという
アテネの<朝貢的>を示していて、その地位から、
ミノア文明の支配を脱して<アテネが解放される>という
歴史的情勢を伝説として伝えるものである。
ギリシア神話を大まかに分類するならば、
1)「神々の誕生に関する神話」または、「宇宙生成神話」。
これが本来の神話であり、
ギリシア古典時代においてもその合理的精神にもかかわらず、
宗教的信仰の支柱となっていた。
例)ヘシオドスが伝える<宇宙創生から神々の支配に至る>物語。
ヘシオドス『神統記』(Theogonia)による。
ここにも、ギリシア以前の神話・伝説の痕跡を留めるという。
2)神々や英雄を主人公とする「伝説圏」。
一連の挿話・物語からなり、主人公が同じであることでわずかに統一性を保っている。
例)ヘラクレスの「12の功業」は、
ヘラクレスの冒険物語という統一性の中で、
各地の伝承を織り込みながら、発展させていったものである。
3)中心の主題は例えば「トロイア戦争」などの「物語編」。
2)の伝説圏と違いは、
主人公、例えば、ヘレネ、アキレウス、プリアモスの子らなど、
彼らを中心に据えた「伝説圏」と違って、
トロイア戦争の物語として単一の筋書きによって規定される。
ここでは、登場人物たちは信仰の対象ではない。
しかし、例えば、実はヘレネとは格下げされた神、
おそらくは先住民族の宗教と結びついた「月の女神」であったなど、
神話・伝説の古層を窺うことができる。
4)縁起物語的な逸話。地名や河川の名称、星座の由来など。
例)ティタン族のアトラスに由来する「アトラス山脈」など。
以上のように分類できるが、
この分類を超えて<多様性に満ちている>のがギリシア神話であり、
古代ギリシア人たちはこの多様性をそのまま受け取っていたようである。
今日のギリシア神話の中心の神々は、「オリンポスの12神」であるが、
これは、アーリア的ギリシア人的な神話が、
それ以前のオリエント的、
かつエーゲ・東地中海的神話の基盤の上に覆い被さり、
支配的になった状況を伝えるものであろう。
そして、両者の相互浸透的な営みの中で、
ギリシアの神話・伝説が今日見るような形で編成、
あるいは生成したものといえる。
上記の1)から<神々の誕生>
ヘシオドス『神統記』(Theogonia)による。
神々の誕生へのリンク
オリンポスの12神
クロノスとレアの子どもたち
3人の娘、ヘスティア、デメテル、ヘラ、
3人の息子、ハデス、ポセイドン、ゼウスは、
<第1世代>を構成した。
なお、ゼウスとヘラ夫妻は、現代風にいえば、
近親相姦になってしまうけれど、
ヘラは本来、古代ギリシア人の女神ではなく、
先住民の大女神であった。
ギリシアの地に侵攻し先住民を征服した古代ギリシア人が、
先住民との宥和を目的に、
彼らの主神ゼウスの妃とした、という。
次いで、ゼウスから生まれた神、
アフロディテ、アポロン、アルテミス、ヘパイストス、
アテナ、アレス、ヘルメス、
それにディオニュソスが<第2世代>となる。
合計すると14神となるが、
後代に<オリンポス山の宮殿に集う神々>ということから、
冥界の王ハデスは除かれたらしい。
ゼウスが天を支配し、ポセイドンが海を支配する。
*地上は自分たちギリシア人のもの?
葡萄と酒の神ディオニュソスは、
おそらく新参者としてハデスに代わったという。
あるいは、女神ヘスティアが彼のためにその座を譲ったともいう。
したがって計12神となるが、諸説あるらしい。
実は、女神アフロディテついても
<ゼウスの子ではない>という見方が一般に流布されていた。
ヘシオドスの<泡(アフロス)から生まれた>アフロディテの説が有名である。
また、ホメロスでは、ゼウスと原初の女神の一人ディオネとの娘とも。
アフロディテの別掲。
女神2へのリンク
デメテル、アテナ、アルテミスについても別掲あり
女神1へのリンク
とりあえず、
12神の容姿と役割などをサムネイル形式で見てみよう
サムネイルへのリンク
<人間の創造>
1,人間の創造は、ティタンの一人イアペトスと、
その妻オケアノスの娘の一人のクリュメネに帰せられる。
彼らには、アトラス、エノイティオス、
プロメテウス、エピメテウスの4人の子があり、
はじめの二人は凶暴な「節度なき」巨人であった。
アトラスは星の神々を生んだ。
*ヒュアデスおよびプレイアデスの両星座は彼から出ている。
また、アトラスは「ティタノマキア」(ティタンたちの戦い)の後、
厳しい罰を受けて、世界の西の果て、空が大洋の方へ傾いているところで、
蒼穹を肩で支えることを命じられた。
ペルセウスがゴルゴンの一人メドゥサを退治した帰り道、
メドゥサの顔をアトラスに示して彼を石に変える。
彼はアトラス山脈となり、ヘラクレスの柱の南方で、
人の住む大地の境界を画し、大洋の始まるところを示すものとなった。
2,プロメテウスが、粘土で人間をつくりだしたという。
3,ただし、ヘシオドスの『神統記』では、
プロメテウスはまだ、人間の恩人と考えられているだけである。
ヘシオドスによれば、プロメテウスはゼウスを欺く。
①厳かな祭儀の時、プロメテウスは犠牲の牛を二つに分けて、
一方には肉と臓腑を動物の腹に隠し皮に包んでおき、
他方には骨だけをうまそうな白い脂肪に包んでおいた。
そして、ゼウスにどちらか取るように言うと、ゼウスは脂肪の方を取った。
骨だけであることを知ったゼウスは、プロメテウスと人間に激怒し、
罰として人間には火を与えることを拒絶した。
②プロメテウスは、天に昇って「太陽の車」から火の元を盗み、
これを葦の茎の中に隠して地上に持ち帰って、人間に与えた。
ゼウスはプロメテウスを見せしめのために罰する。
彼を鋼鉄の綱でもってコーカサスの山頂に繋ぎ、
恐ろしい大蛇エキドナから生まれた一羽の鷲が彼の肝臓を喰らうのだが、
喰われても喰われても、肝臓はまた生えてくる。
この刑罰は、やがて、ヘラクレスがやって来て、矢をもって鷲を射殺するまで続く。
ゼウスが「ステュクス河」にかけて
プロメテウスを永遠に山頂に縛りつけることを誓っていたので、
プロメテウスの解放は、彼が山の岩石の一片を鋼鉄の指輪にはめ込むことによって
ゼウスの誓いが守られているとされたことによる。
4,パンドラ 人間への罰
ゼウスは、ヘパイストスとアテナに命じて、
それまで知られなかった「生きもの」を作らせ、
神々に各々一つずつ美しい性質で飾らせた。
この生きものは「女」であり、
神々からたくさんの贈り物を受けていたので、
「パンドラ」(あらゆる授かり物を持っている者)と呼ばれた。
彼女は、美、優雅、器用な手、説得力を備えていたが、
ヘルメスは彼女の心に<虚言と欺瞞>を植え付けておいた。
ゼウスは彼女をプロメテウスの弟、エピメテウスに贈った。
エピメテウスは、
兄から<ゼウスから何も貰うな>と注意されていたことを忘れ、
パンドラの美しさに迷って受け取ったいう。
ところで、
地上のどこかにあらゆる禍いが閉じこめられている壺があって、
地上にやってきたパンドラはすぐにこの壺を見つけ、
好奇心に駆られて蓋を取った。
たちまち、あらゆる禍いが飛び出してきて、
人間社会に散らばった。
驚いたパンドラが蓋を閉めたので壺の底にあった
「希望」だけが閉じこめられて残った。
*別伝では、この壺は婚礼の際の贈り物として
ゼウスからパンドラに与えられたもので、
中にはあらゆる幸せが入っていたが、
無分別なパンドラが蓋を開けたために
それらを逃がして天上にやってしまった。
いずれにしても、人間には希望だけが慰めとして残った。
4、人間創造についての異説
プロメテウスの一人息子デウカリオンは、
エピメテウスとパンドラの娘、ピュラを妻とした。
そのころ、地上には別の人類、邪悪な「青銅時代の人間」がいて、
ゼウスは、彼らを滅ぼすために大洪水を起こした。
ただ二人の「正しい人間」、デウカリオンとピュラだけが滅亡を免れることになった。
プロメテウスの勧告にしたがって、二人は方舟を造り、水の上に浮かんだ。
9日9夜の後、二人はテッサリアの山々に近づき、
それから水が引くと方舟から出て地上に降りた。
彼らは、荒涼たる地上にある孤独な自分たちの姿を見いだした。
*この大洪水伝説は、周知のように、メソポタミア文明圏から発している。
ゼウスはヘルメスをやって、彼らの願い事を一つだけ叶えてやることにした。
デウカリオンが<仲間が欲しい>と願うと、
ゼウスは、自分の肩越しに「母の骨」を投げよと命じた。
ピュラはそんなこと出来ないと畏れたが、
デウカリオンは「母の骨」とは、万物の母なる大地の骨、すなわち「石」であることを悟り、
肩越しに石を投げるとそれから「男子」が生まれた。
同様に、ピュラにより「女子」が生まれた。
ギリシア諸民族の名祖
その後、デウカリオンとピュラは、正常な方法で子どもたちを儲けた。
彼らの子どもたちが、ギリシア諸民族の祖先となった。
長子はヘレン、
その子にはドロス、クストス、アイオロス。
ドロスはドリア人、アイオロスはアイオロス人の名祖となり、
クストスの子からアカイオス、イオンなど。
それぞれアカイア人とイオニア人の名祖となった。
ドリア人、アイオリス人、イオニア人は歴史時代のギリシア人の三大別で、
アカイア人はホメロスではギリシア人の総称。
歴史時代には、アカイアとは、ペロポネソス半島北岸、
コリントス湾に面する帯状の地域を表わす。
その他に、彼らの物語から「テッサリア人」の創造がある。
別伝
「アルゴス人」の創造。
ここでは、「最初の人間」はポロネウスと名づけられ、
彼はイナコス河(アルゴリス平原の主流)の神と
メリア(とねりこのニンフ)の子とされている。
このポロネウスの子孫にアルゴス人の名祖、アルゴスがいる。
また、ペラスゴイ人の名祖、ペラスゴス、
*ペラスゴイ人とは、
ギリシア最古の民族で
ギリシア先住民族の総称のように用いられるが、
いかなる民族か、
先史考古学的にもいかなる文化の所有者を意味するか全く不明。
そして、クストスの子とは別のアカイオス、
メッセニアの名祖メッセネウス、
テッサリアのプティオティスの国の名の語源プティオスなどがいる。
ディオニュソスの出生伝承と関連して
1)テーバイ王のカドモスの娘セメレとゼウスの間に生まれる。
2)ゼウスと、彼の母レイア(あるいはデメテル)の間に、
あるいは、デメテルの娘ペルセポネとの間に生まれる。
*ディオニュソスをザグレウスともいう。
いずれにせよ、ディオニュソスはゼウスの妻ヘラに憎まれ、
ヘラの命令を受けたティタン族に八つ裂きにされて殺された。
彼の遺体はゆでられ焼かれ喰われた。
*心臓だけが残り、アテナによりゼウスにもたらされたという。
その後、バラバラになったディオニュソスの遺体は集められ、彼は再生した。
ゼウスはティタン族を雷で撃ち冥界に送り込む。
雷で撃たれたティタン族から立ち昇った蒸気が固まり、<すす>となっり、
そこから<人間の種族>が生まれた。
この<すす>にはティーターンの肉と
ディオニュソスの肉(喰らったため)が混ざり合っており、
そのため、ディオニューソス的要素から発する霊魂が
神性を有するにもかかわらず、
ティーターン的素質から発した肉体が
霊魂を拘束することとなった。
すなわち、人間の霊魂は
「再生の輪廻(因果応報の車輪)」に縛られた人生へと
繰り返し引き戻されるのである。
この輪を脱するには、
ディオニューソス的な神性を高める必要があったとされる。
神々と人間
ギリシア人にとって、神々と人間の間には、
連続性の断絶
(これが<無からの創造>の前提になるのだが)は存在しない。
ギリシア人にとって、人間とは<堕落した神>のようなもので、
逆に、人間が自分の功徳によって神の地位を獲得することもある。
人間の創造についてギリシア神話は、
プロメテウスに関連づけているが、
プロメテウスは人間のために「火を盗む」など、
人間にとっては恩人であるが、
ゼウスを激怒させ厳しく罰せられている。
プロメテウス伝説から窺い知れるのは、
人間が<ゼウスの意思に反して>生まれたこと、
ゼウスはもともと「人間の父」ではないことのようだ。
ゼウスは、自分の領土内に人間を見いだし、
とにかく折り合いをつけている支配者の様である。
人間は、オリンポスの神々対して
傍系の一族(落ちぶれた親戚)の様である。
ここにも、ヘブライズム的思考よりも
ヘレニズム的多様性に基づく思考が見られる。
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